ワインと食、そして旅 -WINE, DINE & TRAVEL PILOT

ワインエバンジェリストによるワインと食と旅のブログ

パリスの審判、ミステリー?

 時は1976年5月24日。場所はパリのインターコンチネンタルホテル。カリフォルニアワインとフランスワインの戦いの火蓋が切って落とされました。テイスティング対決。これを現代版のパリスの審判と言います。結果を先に言いますと、白ワインも赤ワインも一位はカリフォルニアワインでした。

 米仏のワインのテイスティング対決が何故ギリシャ神話のパリスの審判に例えられたのでしょうか。パリス君の審判とパリParisでの審判を引っ掛けた、ジャーナリストが考えたオヤジギャグということなんですが、穿った見方をすれば、ワインテイスティング対決とギリシャ神話の共通項がもう一つある可能性が。

 パリスの審判の審判は全員ワインのプロのフランス人でした。常識的に考えると、アメリカ人も審判に入れるか、フランス・アメリカ以外の国の人間を審判にすると思うんですが、そこはさすがフランス人で、フランス人のみを審判にしました。

『最近、カリフォルニアのワインがなかなか良くなってきているそうだから、チョット飲んでやろうぜ。』

のノリでのテイスティングだったと思いますよ。あくまでフランス人は上から目線。

 でも一位はカリフォルニアワイン。

 考えてみて下さい。ワインのプロのフランス人が、ボルドーワインとカリフォルニアワインを見分けることができないのは、おかしいですよね。こういう状況で、フランス人の審判が何故にカリフォルニアワインを一位に選んだか。ちょっとしたミステリーです。私は二つの可能性を考えます。

 二つの可能性には、一つの前提があります。

 『フランス人審判は、当然フランスワインとカリフォルニアワインを見分けられた。』です。ワインのプロなんですから、外観、香り、味わいから、当然見分けられたと思います。

一つ目の可能性

 フランス人審判は、違いをわかっていたのだと思いますが、美味しいと思った方を勝ちにした。たとえそれがカリフォルニアワインでも。この可能性をとると、さすがフランス人、美味いものには正直、パチパチパチ👏となります。

二つ目の可能性

 それは賄賂です。ギリシャ神話では、パリス君に賄賂が提示されました。ワインのテイスティング対決がパリスの審判になぞえられた理由も、これなら腑に落ちませんか。単なるオヤジギャグではなかったわけです。

 これは私の推測です。こう考えると楽しいですよね。実際には、アカデミーデュヴァンの創始者かつパリでカリフォルニアワインも扱っていて、パリ在住のアメリカ人を顧客に持っていた、スティーヴン・スパリュア氏が、アメリカ建国200年、バイセンテニアルの記念イベントで考えたことなので、賄賂は考えづらいかなぁと思います。リターンマッチも要求していますしね。このパリスの審判は合計で3回行われました。なので、2回目以降は可能性ありますね。

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 一位が赤白ともにカリフォルニアワインという結果にフランス側は文句を言いました。いいですか、フランス人の審判が決めた勝ち負けなんですよ。その結果に、フランス人、イチャモンをつけたんです。往生際が悪いですよ。いわく、フランスワインは飲み頃ではなかった。まあ一理あるっちゃああるんですが、それなら熟成したワインを出したら良かったじゃん、です。1976年ですから、30年は無理でも20年ものは出せたと思います。まあ、あくまで推測ですが。

 今から考えると笑えますが、フランスは一位をカリフォルニアに取られて、青くなったと思います。だって、経済や産業では既にアメリカには遠く及ばないわけですから、文化のシンボル的なワインで負けるわけにはいかないでしょ。それでリターンマッチ。

 リターンマッチは、フランスワインの代表と思われていたボルドーが熟成を迎える10年後と30年後に行われましたが、これもまたカリフォルニアワインの勝利でした。フランス、勝てないですね。何故でしょう? 賄賂のアイデアがチラつきますね(藁)。

 パリスの審判。得したのは誰か。結果をみると、

 1. カリフォルニアワインが世界的に認知されました。なので得したのは第一に、カリフォルニアワインサイド。

 2. 主催したスパリュア氏のワインショップとワイン学校も流行ったでしょうね。

 3. 地位に胡座を描いていたフランスワインサイドにも、良い刺激になった。

    現在では、ニューワールドのワインは品質も良くコスパも高いので、私達のデイリーワインではお馴染みです。フランスワインも、パリスの審判でダメになったわけでもなく、相変わらず高い人気があります。ボルドーワイン美味いですし。

 こう見てくると、ワインのテイスティングイベントは、やはりマーケティング活動ですね。賄賂はマーケティング費用(笑)。国際テイスティングイベントに出品されるレベルのワインは、通常、私達の口には滅多に入るものではありませんから。