ワインと食、そして旅 -WINE, DINE & TRAVEL PILOT

ワインエバンジェリストによるワインと食と旅のブログ

江南の春と吉野の初夏

 5月も半ばにかかり、東京は初夏に近くなってきました。梅雨入りまで、光あふれ風薫る季節が続きます。気持ちの良い太陽の光の中、風に纏わりつかれて、うたた寝しつつ過ごす午後は幸せを感じます。お供に冷やしたロゼワインがあるとなお良いなぁ。

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 この季節になると、毎年決まって思い出すのが、「江南春」という漢詩。中国は唐代(晩唐)の詩人、杜牧の作品です。学生時代から、この詩の風景に憧れていました。

 

千里鶯啼緑映紅

水村山郭酒旗風

南朝四百八十寺

多少楼台煙雨中

 

意訳をすると、

 

そこらじゅうで鶯が鳴いていて、赤い花が緑の木々に映えていますよ

水辺の村や山里の村が見えますし、酒場ののぼりが風にはためいています

南朝時代の名残の寺院が多くあって、それらの寺院の楼閣が春の霧雨にけぶっていますね

 

江南の春の、なんとものんびりとした風景を詩人が見るとはなしに見ているわけです。また、南朝時代の名残りをとどめる寺院を見て、越し方行末も考えます。

 

 中国の江南は、長江の下流南岸の地域です。長江の最下流部は揚子江と呼ばれています。私の世代は揚子江と習ったので、こちらの方が馴染みがありますが、およそ6300kmにわたる川全体を言う時は、長江。その長江の南岸の、今の江蘇省、安徽省、浙江省あたりが江南地域で、古くから一大農耕地域だったようです。南の地域なので、春とはいえ、おそらく東京の初夏ぐらいの気温はあったんだろうと推測します。

 

 作者の杜牧は、良いところの坊ちゃんで、科挙の進士に合格したエリート役人です。育ちの良さが、詩に癒しを与えているように思います。

 

 自身の心を解放でき、癒される場所で、春から初夏を過ごして、ボッーとする贅沢な時間を持つことは、精神衛生上大切だと私は思います。

 私の癒しの場所は奈良。吉野川沿いの初夏の佇まいや、三輪の山の辺の道、明日香村あたりですね。お供の酒は、ロゼワインとともに、今西酒造の三諸杉があればより至福です。

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