ワインと食、そして旅 -WINE, DINE & TRAVEL PILOT

ワインエバンジェリストによるワインと食と旅のブログ

人生は幻というけれど

 古来から人間の仕事には、成功や失敗がつきもののようで、一喜一憂しますよね。出世、降格、栄転、左遷。長い人生色々とあります。

 唐代中期の詩人に白居易という人がいます。字が楽天なので、白楽天という名前でも有名な方です。白居易は詩人で有名ですが、同時に政府の役人でもありました。鄭州、現代の鄭州市に生まれ、29歳で科挙の進士に合格。その後、書判抜萃科に合格して、晴れて秘書省校書郎という役人になりました。彼は、努力と勉強をし続けて、出世していき、盩厔(ちゅうちつ)県尉、翰林学士、左拾遺を歴任します。エリートだと思いますよ。エリートですけれど、詩人としても優れていて、806年に七言古詩120句の長編歌行「長恨歌」を作りました。長恨歌、超有名です。白居易にとっての詩作は、仕事とはまた別の、一生をかけてやるべきことだったのでしょう。

 白居易の生まれは西暦で言うと772年、役人になったのが803年のことなので、日本では、桓武天皇が即位し、長岡京を経て平安京に遷都がされて、空海や最澄が入唐(804)した頃ですね。ひょっとして、空海や最澄が白居易に唐のどこかで会っていたり、すれ違っていたりしたかも。

 白居易は、お母様がお亡くなりになり、官を辞します。3年間、無位無冠だったそうです。仕事より家族なんですね。その後復帰しましたが、上書で越権とみなされる行為によって、左遷になりました。

その時に詠んだ詩が、

 泰山不要欺毫末,顏子無心羨老彭
 松樹千年終是朽,槿花一日自為榮
 何須戀世常憂死,亦莫嫌身漫厭生
 生去死來都是幻,幻人哀樂系何情

ここが今日このブログで言いたいことなんです。

簡単に訳すと、

 デッカい泰山は、決して小さなものをバカにしないし、顔回は、はやく死んだからといって、長生きした彭を羨まない

 松の寿命は千年というが、いつかは朽ち果てる、槿花の命はわずか1日だが、美しい花を咲かす

 生きることに執着して死ぬことを怖がるのはバカみたいだ、自分自身をダメで役に立たないと思って、人生を投げ出すのもバカだ

 この世に生まれたのも、死んでこの世を去るのも、幻よ幻

 人生は幻なんだから、生や死、喜びや悲しみ、成功や失敗なんてものにこだわる必要はないんだ。

意訳すると、

 デッカくとも小さくともちゃんと価値がある

 長生きでも早死にでも、人それぞれ

 この世や人生は幻

 幻なんだから、失敗したっていいじゃないか

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出典 白楽天・『晩笑堂竹荘畫傳』より

 白居易は、左遷という逆境を、どうせ幻だし、くよくよしても始まらないしと、気持ちを切り替えたようです。後に、中央へ復帰して、望んで地方官なども歴任し、71歳で退官しました。退官後、詩文集の「白氏文集」を完成させ、75歳でお亡くなりになりました。

 

 人生には色々なことがあるのだし、幻のようなものなので、不必要に一喜一憂せずに、淡々と生きていくことが大事なんだと、私は理解しています。

 また、仕事、家族、一生かけてやること(白居易の場合は詩)を、バランスをとってやり抜く努力が必要です。現代のワークライフバランスですね。この点、白居易は、人生その時々で強弱はあるものの、見事にバランスを取って生き抜いています。