ワインと食、そして旅 -WINE, DINE & TRAVEL PILOT

ワインエバンジェリストによるワインと食と旅のブログ

猿酒とワイン

    またも下らない話で恐縮なのだか、猿酒伝説というものをご存知でしょうか?要は猿たちが醸した酒をひと様が掻っ払うという話。主に中国の今の雲南省辺り、とにかく辺境の作り話が旅人の口コミにより都会に伝わり、それを馬鹿な学者が信じて、したり顔で広めたようなのだ。大昔なので、移動手段はおのれの足か、せいぜい馬ぐらいなのだから、辺境まで確認に行くことはできない。それを良いことに面白おかしく広まっていったようです。

    なんで猿酒の話なのか。この話の発端は、ある友人が猿酒で始まる俳句を読んだことだ。日本で猿酒は秋の季語。この友人は、東大の理系の出身だが、非論理的なことをさも論理的であるかのように説明するという列子の朝三暮四のような特技を持つ男で、少し前から俳句に凝っている。この男が駄句をひねり出した後、猿酒はあったのかが話題になった。めんどくさい話をしてしまったと後悔したが、いくらこの男でもさすがに猿酒の存在理由を論理的に説明することなどできない。

冷静に考えれば、猿が酒などを醸すわけもなくウソっぱちだとわかる。そもそも猿は食べ物を蓄えるということはしないのだそうだ。だから猿がためこんだ木ノ実が発酵してということは否定される。

「オマエは何でそう身も蓋もないのかねぇ、ちっとはロマンを感じたほうが良くねぇか。生活に潤いがねーだろ。」とのたまう。ほっといて欲しい。

「アマゾンの奥地ぐらいに酒醸す猿がいるかもしれね〜じゃん。」

アマゾンの奥地ぐらいに酒を醸す猿はいない。猿の上前をはねるひと様もいないから確認しようがないからだ。確認とは、その行為を観る人がいて初めて成り立つ。

「ヒマラヤの山ん中とか。」

そりゃイエティだろ。イエティだったら酒醸すかもしれないが。

「あと猿の惑星の猿とか。」

ニホンザルのひーちゃんです、特技は酒造りです。猿酒買ってくれよー。買ってくれた人にはもれなく木ノ実を二個つけます。なんて猿が出てきたら面白くねーか?」

面白くない。そもそもなんで猿の名前がひーちゃんなんだ。次郎とかだろう、ふつう。ひーちゃんは面白くない、じゃあ笑えばじゃなくて、むしろ怖い。

    猿酒は猿が木の洞や岩のくぼみなどに溜め込んだ果実などが自然に発酵して酒になったものである。ましら酒とも呼ばれ、猟師や木こりなどが探し求めて飲んだといわれる。(Wikipediaより)

    この友人のように猿酒を最古の酒と考える方々がいらっしゃるのも事実。一方、Wikipedia によると、石毛直道先生は「野生のサルが食料を貯蔵する習性はないとされている。したがってサル酒は存在しないと考えてよい」と述べています。(石毛直道「酒造と飲酒の文化」)

    猿酒はワインのルーツだ、という考え方というか一種ロマンチックな話がありますが、これはどうもワインのルーツを猿酒にすることで、猿酒は中国の話なんだから、ワインのルーツも中国だという屁理屈をこねたいだけのようです。猿酒自体の否定説を私は取りたいので、ワインのルーツは猿酒ではないということになります。

    縄文人はワインを造ったかなどワインのルーツに関する話題は、多岐にわたりとても楽しい分野だと思います。また、多くの論文や研究成果も発表されています。ワインを楽しむ方法もいろいろあって良いと思います。ワインの歴史やルーツん探ってみるのも、ワインの楽しみ方のひとつですね。